2012年9月23日日曜日

「ハッピー・リビング ということについて」

(ヤン富田コンサート・リキッドルーム 2012.9.22 に於ける発言から文字起こししたものを校正)


あのそしたらですね、ちょっとドラム缶 (スティール・パン)に関係するお話なんですけれど、ドラム缶っていうのは産業廃棄物を詰めるもので出来てたもので、或は限りある資源を詰めていたもので、つまり核文明の中でそうした物を詰めていたものなんですね。それでそのドラム缶の廃材を使って何かを表現するということは、大きな事言っちゃうんですけれど、つまりその人類に対する鎮魂の意味もあるんじゃないかと、で、そうした考えのもとに、1994年に"HAPPY LIVING" という、日本で最初のスティール・オーケストラのアルバムとなる作品を制作しました。


それで昨年の3月11日に、もうこの国には致命的な事が起きて、今は有事だと思うんですね。それで平時の時は何でも良いんですけど、その発表時の1994年のお友達のライターさんの中には、「ヤンさんこのアルバム凄く気持ちが良かった! 若い子とセックスする時にかけたらバッチリだった」って言ってくれて、まさにハッピーリビングだよね、アハハって言ってたんだけど、今はそうも言ってられなくなって。


それでその"HAPPY LIVING" の中に "Bikini Rock" という楽曲が入ってまして、それはチェロ・パンっていって、スティール・オーケストラの中では一番優雅な響きを持つ音域のドラム缶なんですね。それを使ってロックンロールのリフみたいなフレーズを弾くのですが、途中からそのチェロ・パンの音が電子変調されて、ボヨヨ~ンっていう音になって絡んでいくんです。で、それは何かと言うと放射能が漏れている音を表現しているんです。そこには何も知らない子供達のきゃきゃっと遊ぶ声も入ってきます。


1954年にビキニ環礁で水爆実験が行われまして、第五福竜丸という日本の漁船も被曝しました。で、その"Bikini Rock" の中奏には、1954年に発売された豪華客船の中でかかるようなクルーズ物のラウンジ・ミュージックの一節をサンプリングして、それとその"Bikini Rock" の曲がですね、インテンポでクロスフェードしていくんです。そこに波の音がザーと入って来て、更にテープヘッド・バイオリンのピューンっていう音が絡んでいきます。テープヘッド・バイオリンというのは、テープレコーダーのヘッド部分がバイオリンの駒の位置に付いていて、弓には1khz の信号を録音したテープが張られています。その弓でヘッドの部分を擦るんです。T.V.アニメの鉄腕アトムの足音というのは、マリンバの音を録音したテープをヘッドにあてて、きゅきゅって擦った音なんですよ。まさに原子の子供っていう感じで。それでそのテープヘッド・バイオリンがピューンって入ってきて、最後はボンって水爆が破裂する音を表現して終わります。


ちょっとアルバム・ジャケットを(ライブ・カメラのスクリーンに)映してもらえますか。

私、当時、エネルギー問題を考えてました。アハハ。










これはソニーから発売されたんですが、こうした核のマークとかは、メジャーのレコード会社から発売するのはなかなか難しいんですけれど、ノンポリ(ノンポリティカル)を気取って何も知らないよ~っていう感じでとぼけて企画通して発売しちゃったんです。


それで何を云いたいかというと、反原発派も推進派も一緒くたに、あなたにとってのハッピー・リビング、幸せな生活って何?、何なの?っていう根源的な問いかけを内在させていたんです。  













(画像のページは、"HAPPY LIVING" 発表の10年前に遡る LOO MAGAZINE 1984年12月号 。)