2020年7月8日水曜日

ヤン富田:パンとヒップホップ・ビバップ・ドンスタ・ショー : AT BLUE NOTE TOKYO, 26-4-2018

Pan & Hip Hop Bebop Don't Stop Show : at BLUE NOTE TOKYO, 26-4-2018

YANN TOMITA STEEL PAN SOLO:「だいじょーぶ」
Double Tenor Pan : ヤン富田


YANN TOMITA 's HIP HOP BEBOP DON'T STOP SHOW :
1. 「ヒップホップ・ビバップ・ドンスタ・ショー」
2. 「忘れられない頃」
3. 「サーファーガール」
* 日本のスティール・パン黎明期
4. 「だいじょーぶ」

A.S.L. MCs:いとうせいこう、M.C. BOO、高木完、HIPHOP最高会議ー千葉隆史、ロボ宙
DOOPEES:Vocals - 大野由美子、スージー・キム
Guitar:小山田圭吾     AV Navigator :金尾修治     PA:DUB MASTER X

BREAKSーDR. YANN'S BEAT CLASSICS、 
ELECTRONIC TANPUURAーBuchla 296e, 261e x 2, 256e, 291e, 281e, 292e & 227e 
Guitar, Double Tenor Pan:ヤン富田

Recorded Live at BLUE NOTE TOKYO, 26-4-2018

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スティールパンに関する記事の紹介
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大人の科学マガジン 「エレクトリック・スチールドラム号 (2014/9 学研)  
画像左、付録のエレクトリック・スチールドラム・キットが入ったボックス。右は、特集記事。世界初のデジタル・パン、 COSMIC PAN (1986) の紹介と日本のスティールドラム黎明期の話など所収。


















Relax Magazine (2003/06/76号) スティールパン特集号:YANN TOMITA’S STEEL DRUM ARCHIVE from his Laboratories は、その歴史、動向、エポックとなる音源をまとめた記事とインタビュー等。
70年代初頭からスティールドラムが入っているレコードは購入してたので、これは私がやらなければと使命に燃えてまとめました。手前味噌ですが、STEEL DRUM の音楽に興味があるならばお勧めします。

1947年、世界で最初に発売された STEEL BAND のレコード。STEEL DRUM ARCHIVE にはこの音源の紹介から、トリニダードで2000年に開催された WORLD STEELBAND MUSIC FESTIVAL 2000 までの、エポックとなる67のトピックを体系的、多元的に構成しました。






































































インタビュー記事には、スティール・ドラムを始めた70年代中期から年代順に紹介。

















































右上中央、ダブル・テナーパンを考案し現在のパンサウンドの先駆者でもある、バーティー・マーシャル。
他、 ”MUSIC FOR ASTRO AGE”(1992) に於けるトリニダードでの録音風景。ベースはジャズシンガー、ニナ・シモンの米国でのツアーメンバーでもあった人。レコーディング・スタジオは、ポート・オブ・スペインの港にあるSEA LOTS STUDIO。20世紀に制作されたトリニダードのレコードの大半はこのスタジオで録音されています。

















































画像上、左から、PELHAM GODARD (Exodus Steel Orch. Arranger)、私、JIT SAMAROO (Renegade Steel Orch. Arranger) 。スティールバンド界の好敵手である、Exodus とRenegade の両アレンジャーが共演する事など現地ではあり得ないのですが、Astro Age のアルバムに収録された”We Travel The Spaceways” : スティールバンド・バージョンではそれが実現しました。






























画像は、日本で最初のスティール・オーケストラのアルバム、ASTRO AGE STEEL ORCHESTRA  “HAPPY LIVING” 
の制作風景です。1994年、前回に続いてのトリニダード録音。Tenor の今井秀行、田村玄一、Double Second の小川千果、Triple Cello の大野由美子も帯同しました。このアルバムでデビューした DOOPEES は、翌年にはアルバム “DOOPEE TIME” (1995) を発表します。





















PLAYER MAGAZINE (1983) パンに関する執筆仕事。掲載ページにある破線を切り取るとスティール・ドラム・ワールドのミニブックになる。画像はその表紙。


(以下、ヒップホップとスティールドラムに関連する記事を再掲します。)
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「ピコンという名の頭脳委員会」
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日本で最初のヒップホップ・アルバムとなった、いとうせいこう MESS/AGE
画像左、1989年発売のオリジナル盤、特殊仕様のジャケットに96頁の福音書が付く。右、95年の再発盤。
DR.YANN’S BEAT CLASSICS for SEIKO ITO’S MESS/AGE 2枚組 非売品 MESS/AGE のインスト盤。





































(第3回アシッドテスト『実存と構造と生命体』(2013.1.20 開催)より、楽曲の構造ー凡例3からの発言を文字起こしして校正)

[楽曲試聴後…]
これは、私が制作した1989年のいとうせいこう "MESS/AGE" というアルバムからの「メッセージ」という楽曲です。オケはカリプソ・シンガー、マイティー・スパローのアルバムからサンプリングして作った作品です。当時(1988年)このアルバムを持っていたのは、私だけだったと思うんですけど、アハハ。ミュージックマガジンでカリプソの原稿を書いてた深沢さんは持ってなかったし、故中村とうようさんも持ってなかったと思います。でもまあ、コレクターの事も考慮すると日本では多めに見積もっても五人位いたのかも知れません。それで、このお話のポイントはそのことにあるのではなくて、曲の後奏部分でピコン、ピコンと唄ってるでしょ、そのピコンっていう事のお話なんです。
カリプソというのはリズムの名称ではなくて社会風刺歌の事なんです。皮肉たっぷりに面白可笑しく日常の時事ネタを唄って笑い飛ばすというもので、その風刺の度合いをピコンといいます。支配体制と非支配体制との闘いの中から生まれたもので、カリプソ発祥の地トリニダード・トバゴでは、カリプソシンガーは国を代表する頭脳委員会的な位置づけにあるのです。ですから普段は学校の教師だったりする人が、年に一度のカーニバル時にはカリプソニアンとなって活躍したりします。
"MESS/AGE" は、アルバムの冒頭部分と最後の楽曲にカリプソを持って来て、核が爆発した地球の事をテーマにしようとディレクションをして、いとうさんが歌詞を創っています。

思い出はあの夜  熱にうかされ ふくらむ月
黒ずんだ空と 濁る海の色  おみやげ絵ハガキ 捨てて出てくよ
まぶしいカビがただよう夕焼け  くせになりそうだった 居心地良くて

すばらしい星にさよなら 必ずまた来るよ 出来るならそれまでは
ヒトいればいいけれど

(ピコン、ピコン、ピコン)

これはその歌詞の抜粋ですが、アルバム"MESS/AGE" はそうしたことで、奥行きのあるアルバムとして上梓できたと自負しています。

それでまあ、こんどは、1992年と94年に、スティール・ドラム発祥の地でもあるトリニダード・トバコに渡って、私のソロ・アルバム "MUSIC FOR ASTRO AGE" と、ASTRO AGE STEEL ORCHESTRA 名義での "HAPPY LIVING" というアルバムを制作するのですが、それらのアルバムのキャストは、1983年に初めてトリニダードへ渡った際のリサーチで大方決めていました。

"HAPPY LIVING" の制作では、マイティー・スパローと並ぶ国民的ヒーローであるカリプソ・シンガー、ロード・キチナーの楽曲をカバーしています。  "Hold On To Your Man" という1964年の作品で、「スティールバンドの奴らが町にやって来る、奴らに心を奪われないようにしっかりと抱きしめて...」といった内容のロードマーチです。キチナーは特にスティール・バンドの重要なレパートリーとなるロードマーチの名曲を数多く遺した音楽家で、国の宝として庶民に圧倒的な支持を得ていました。

当初、唄はキチナーにお願いするつもりでいたんですよ。当地のブッキング・マネージャーからは、「トミタ、キチナーは一曲◯ドル出せば来てくれるよ」と言われました。その提示した額というのは、おそらく、私にオファーを断念してもらう為の方策で、それからブッキングマネージャーとの橋渡しをしてくれた、現地在住の日本人の方の面目を保つ意味もあったのでしょう。でなければ単に私からのオファーをキチナー・サイドが断ればいいだけの話ですから。それに国の宝でもある我らがヒーロー、キチナーが参加するの?と、現地のスタッフから戸惑いのような空気も感じていました。

それで、その額は当地ではそうゆうスキャンダラスな驚くような額ではあるのですが、実は、当時は私のような者でもアルバム制作費としては潤沢にあったので、可能な額だったのです。 ここでジャパン・マネーの威力をかってキチナーに唄ってもらえば、アルバムとしてはヒストリカルな作品になるのは判っていました。世界中にファンがいるのも知っていました。ただそれよりも、その額でお願いして演ってもらった場合、おそらく彼らはその事を、皮肉たっぷりに面白可笑しくカリプソにしてしまうだろうなと思ったのです。そのくらいの事は彼らカリプソニアンはするのです。めちゃくちゃ頭が良いですから。それでホテルにもどって一晩考えて頼むのをやめました。

( "Hold On To Your Man" 所収のキチナー1964年発表のアルバム。)




















Yann Tomita & Lord Kitchener at Port Of Spain, Trinidad, 1983
(1983年、ヤン富田とロード・キチナー、首都ポート・オブ・スペインにて)


















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「ハッピー・リビング ということについて」
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(ヤン富田コンサート・リキッドルーム 2012.9.22 に於ける発言から、文字起こししたものを校正)

あのそしたらですね、ちょっとドラム缶 (スティール・パン)に関係するお話なんですけれど、ドラム缶っていうのは産業廃棄物を詰めるもので出来てたもので、或は限りある資源を詰めていたもので、つまり核文明の中でそうした物を詰めていたものなんですね。それでそのドラム缶の廃材を使って何かを表現するということは、大きな事言っちゃうんですけれど、つまりその人類に対する鎮魂の意味もあるんじゃないかと、で、そうした考えのもとに、1994年に"HAPPY LIVING" という、日本で最初のスティール・オーケストラのアルバムとなる作品を制作しました。

それで昨年の3月11日に、もうこの国には致命的な事が起きて、今は有事だと思うんですね。それで平時の時は何でも良いんですけど、その発表時の1994年のお友達のライターさんの中には、「ヤンさんこのアルバム凄く気持ちが良かった! 若い子とセックスする時にかけたらバッチリだった」って言ってくれて、まさにハッピーリビングだよね、アハハって言ってたんだけど、今はそうも言ってられなくなって。

それでその"HAPPY LIVING" の中に "Bikini Rock" という楽曲が入ってまして、それはチェロ・パンっていって、スティール・オーケストラの中では一番優雅な響きを持つ音域のドラム缶なんですね。それを使ってロックンロールのリフみたいなフレーズを弾くのですが、途中からそのチェロ・パンの音が電子変調されて、ボヨヨ~ンっていう音になって絡んでいくんです。で、それは何かと言うと放射能が漏れている音を表現しているんです。そこには何も知らない子供達のきゃきゃっと遊ぶ声も入ってきます。

1954年にビキニ環礁で水爆実験が行われまして、第五福竜丸という日本の漁船も被曝しました。で、その"Bikini Rock" の中奏には、1954年に発売された豪華客船の中でかかるようなクルーズ物のラウンジ・ミュージックの一節をサンプリングして、それとその"Bikini Rock" の曲がですね、インテンポでクロスフェードしていくんです。そこに波の音がザーと入って来て、更にテープヘッド・バイオリンのピューンっていう音が絡んでいきます。テープヘッド・バイオリンというのは、テープレコーダーのヘッド部分がバイオリンの駒の位置に付いていて、弓には1khz の信号を録音したテープが張られています。その弓でヘッドの部分を擦るんです。T.V.アニメの鉄腕アトムの足音というのは、マリンバの音を録音したテープをヘッドにあてて、きゅきゅって擦った音なんですよ。まさに原子の子供っていう感じで。それでそのテープヘッド・バイオリンがピューンって入ってきて、最後はボンって水爆が破裂する音を表現して終わります。

ちょっとアルバム・ジャケットを(ライブ・カメラのスクリーンに)映してもらえますか。
私、当時、エネルギー問題を考えてました。アハハ。

1994年発売の日本で初となるスティールバンドのアルバム。


















これはソニーから発売されたんですが、こうした核のマークとかは、メジャーのレコード会社から発売するのはなかなか難しいんですけれど、ノンポリ(ノンポリティカル)を気取って何も知らないよ~っていう感じでとぼけて企画通して発売しちゃったんです。

それで何を云いたいかというと、反原発派も推進派も一緒くたに、あなたにとってのハッピー・リビング、幸せな生活って何?、何なの?っていう根源的な問いかけを内在させていたんです。







































(画像のページは、"HAPPY LIVING" 発表の10年前に遡る LOO MAGAZINE 1984年12月号所収 。)